日別アーカイブ: 2026年9月23日

割烹松屋の想い 新たな試み

 

松屋の想い

◎~「大切な人を連れてきたくなる店」であり続けるために~

 いつも割烹松屋をご愛顧いただき、心より御礼申し上げます。
昭和三十九年の創業以来、泉佐野の地で皆様に支えられ、松屋は今年で六十二年目を迎えることができました。

私たちが今日まで厨房に立ち続けてこられたのは、他でもありません。
松屋を「大切な人を連れてきたくなる店」として選び、
大切なご家族の節目を私たちに託してくださる、
お客様の温かいお気持ちがあったからです。

◎96歳のお客様が教えてくれた「食い力(ぐいぢから)」

当店には、八十代、九十代のご高齢のお客様もたくさん足を運んでくださいます。
松屋日、大変嬉しい出来事がありました。
九十六歳を迎えられたお客様がご来店になり、
ワインを二杯愉しまれながら、
大将の仕込んだわたりがにコースの全料理を、
見事にすべて完食してくださったのです。

目の前で生き生きとお食事を愉しまれるその美しいお姿を
拝見したとき、私たちは胸が熱くなると同時に、
深い確信を得ました。

◎「長生きの秘訣は、食べる元気。すなわち『食い力』なのだ」と。

人間の生命力は、美味しいものを心から愉しんで
食べることで湧き出てくる。
その大切な営みの場所として松屋を
選んでいただけること、料理人としてこれ
以上の誉れはありません。
◎横須賀から、名古屋から全国から。海を越え、距離を越えて届く笑顔

松屋の「わたりがに」を求めて、
お客様は本当に様々な場所からお越しになります。
先日は、神奈川県の横須賀から
「松屋のわたりがにを食べることを、
日々の目標にして歩んできた」と、
はるばる新幹線を乗り継いできてくださった
お客様がいらっしゃいました。
またある日は、名古屋からご高齢のご両親の手を引いて、
「親に本物を食べさせたくて」と車を
走らせてくださったご家族も。

お客様は皆様、口々にこうおっしゃいます。
「わたりがにが食べたくてね。子供の時は
この辺りじゃおやつ代わりに食べた、
あの懐かしい味がどうしても忘れられなくて」

そのお言葉をいただくたび、女将と二人、目頭が熱くなります。
お客様が心のなかに大切に仕舞われていた
幼き日の記憶、故郷の味。
その思い出の答え合わせをする場所が、
今の松屋なのだと知るからです。
皆様の「美味しかった、また来るね」と
いう笑顔こそが、私たち夫婦にとって
何よりの生き甲斐であり、
明日を生きるモチベーションそのものなのです。

 

◎苦悩と葛藤、そして「私にしかできない」という誇り

 しかし、正直にお伝えしなければならないこともあります。
近年、大将の心のなかには
「もうそろそろ、お店もいいかな……」と
いう思いが、ふと過る瞬間もありました。

なぜなら、「わたりがに」という生き物は、
皆様が想像される以上に脆く、繊細で、
扱いが狂うほどに難しい蟹だからです。
毎朝水槽の前に立ち、一杯一杯の状態を見極め、
時には「今日は使わない」と
苦渋の決断を下す日もあります。

水槽の管理から命の選別、
そして寸分の狂いも許されない仕込みに至るまで、
その裏側にある苦労は壮絶で、
時に心が折れそうになることもありました。
効率だけを求めるなら、とうに諦めていたかもしれません。

それでも、私たちが立ち止まらない理由があります。

「一切のだましなしのわたりがに料理は、日本で私しかできない」

この強固な誇りと覚悟があるからです。
素材を誤魔化さず、わたりがにが持つ
「一番美味しい瞬間」を極限まで引き出す技。
それは、半世紀以上この蟹だけを見つめ、
命と対話してきた大将にしか到達できない領域です。
この味を待ってくださる方がいる限り、
少しでも皆様の人生の喜びのお役に立ちたい。
その一心で、私たちはもう一度前を向きました。

 

◎この秋より、「昼二組・夜二組」という贅沢な選択へ

お客様の「食い力」に、私のすべての命を懸けて応えたい。
その理想の形を突き詰めた結果、割烹松屋は、
この秋より大きな決断をいたしました。

これからは、【昼二組、夜二組】のみ。
一日、わずか四組のお客様だけを
お迎えする営業スタイルへと変わります。

たくさんのお客様をお迎えすることはできなくなります。
しかし、お席を限らせていただくからこそ、
仕込みからお料理の仕上げ、
そしておもてなしの細部に至るまで、
料理人の目と手を限界まで
行き届かせることができます。

松屋が誇る「一切だましなしのガストロノミー(美食)」を、
最も濃密な空間でお届けするための、
前向きな変化でございます。

※なお、十五名様までの団体様につきましては、
これまで通り貸切等のご相談をお電話にて承ります。
ご家族の特別な集まりの際には、
どうぞ遠慮なくお申し付けください。

一度きりの人生、
大切なあの人を連れていきたい場所として。
新しく生まれ変わる割烹松屋で、
皆様の五感を満たす最高の一皿をご用意し、
夫婦ともども心よりお待ち申し上げております。

割烹松屋 大将・女将