日別アーカイブ: 2026年9月12日

横須賀から日帰り旅行。母と娘の絆

横須賀からの日帰り旅。15年ぶりの暖簾をくぐって

先日、胸がいっぱいになる、料理人冥利に尽きる出来事がございました。

遠く神奈川県・横須賀より、実に15年ぶりにお客様がお見えになられたのです。 かつては年に3度ほど、決まってお顔を見せてくださっていたご夫婦。しかし、ご主人が体調を崩され車椅子での生活となられてからは、大阪への長旅は難しく、足が遠のいてしまっておりました。

そして昨年、そのご主人が静かに旅立たれたとお聞きしました。

今回ご来店くださったのは、その奥様とお嬢様のお二人です。 「父が大好きだった、あの松屋の味をもう一度、母と一緒に食べに行こう」 お嬢様がそう背中を押し、朝早く羽田空港を発ち、関空を経由して、ただ割烹松屋のわたりがにを食べるためだけにはるばる泉佐野までお越しくださったのです。15時前の飛行機でとんぼ返りという、まさに弾丸の日帰り旅でした。

お母様は、ふわりと柔らかな笑顔でこう仰ってくださいました。

「朝早く起きて飛行機に乗ってきた甲斐がありました。本当に美味しくて、贅沢な時間を過ごせています。少し強行軍の予定でしたけれど、娘が『行こう』と誘ってくれた時から、ずっと心がウキウキしていたんですよ」

懐かしい思い出話に花を咲かせながら、お料理を一口一口、慈しむように召し上がってくださるお二人の姿。 ご主人が遺してくださったご縁が、こうして母と娘の温かな時間へと繋がり、その真ん中に私どもの料理を置いていただけている。料理人を続けてきて、これほど幸せで誇らしい瞬間はありません。胸の奥から込み上げる熱いものを抑えられませんでした。

お帰りの際、お母様は晴れやかなお顔で 「本当にご馳走様でした。今度はまた近いうちに、すぐに来ますね」 と、力強く手を振ってくださいました。

旅の途中で思い出す味ではなく、旅の「目的」として選んでいただける店であること。 そして、大切な思い出を胸に訪れてくださるお客様の心に、温もりと活力を届けられる店であり続けること。

横須賀の空へ飛び立たれたお二人の笑顔を心に刻み、今日も感謝を込めて、一所懸命に暖簾を掲げます。

割烹松屋 濱田